「わたしたちが視ている世界には
視覚が引きつけられる対象が存在していることを
無意識化で認めている」 ー ロラン・バルト
「五感カフェ」北川マキ子です。
前回はこのような視線の引力について化学的な背景を踏まえて
お伝えしました。
これらの研究結果は、写真をはじめとした
ヴィジュアルデザイン、絵画、ヴィデオなどを
どのように見せるのかを決める際に
とても重要な機能にもなってくることがおわかりかと思います。
今回は、この理論に加えて、
見る人を引きつける構図についてお話してゆきます。
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わたしたちは無意識に判断している
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構図=人を引きつける状況は2種類あります。
一つは、その被写体からさらなる情報が期待できることを
脳が経験的に知っている場合です。
ふたつ目は、その被写体が見る人の感情や欲望に訴えかけるときです。
視覚を引きつける被写体の中で
最も知られているのが人間の顔のつくりです。
特に、目と口は、必ず視線を引きつけます。
これは、相手の目と口を見ることで
その人が次にどんな反応をするのかを無意識に判断しているからです。
実際に、神経系統では人間の脳には顔を認識する
特定の部位があることが明らかにされています。
その人が笑ったり怒ったり、泣いたり
または泣きそうになったり、悲しそうであったり
苦しんで辛そうに感じたり
気持ちが良さそうに見えたり
それに対して「自分」はどう見えているのか?とはっと気が付いたり・・・・
無意識レベルで判断・解釈が行われています。
また、手や指先も視線の引力が強く働く部位です。
顔と手に関しては、動物的本能や潜在意識が「危険」を察知して
素早く行動するために、備わった能力で、
視覚的に重要な役割だと考えられています。
指先はこちらに向かっていないか?
拳を上げてこないか?
ポケットに入れている手には何が握られているのか・・?
大雑把に言えばこんなイメージです。
日常ではほとんど機能していないような意識かもしれませんが
海外旅行でダウンタウンを歩くとき、
あえて言葉にすれば、こんな感じでしょうか。
そう考えると脳内は消耗しているのでしょうね。
また、視線の引力が働くもうひとつの被写体が「文字」です。
文字も情報として大きな役割として認識します。
例えば、ストリートスナップでは
標識や広告などが注意を引くことも多いですが
そこに書かれている言葉の意味は
ビジュアル面でも別の次元で人を引きつけます。
わたしたちは、日頃その文字に何かしらの意味がある
と知覚しているからこそ引き寄せられています。
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美しいと感じる世界を求めて
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例えば、広告は人々の関心を引いて
感情を煽るような言葉が使われています。
たとえそれが見る人にとって知らない言葉でも、
文字には注意を払ってしまうのは
外国人が漢字に惹かれるのも同じ原理だと言われています。
これは、わたしたちが読むことが困難な外国語や文字に触れたとき、
視覚に訴えかけてくる時のことを想像すると
わかりやすいかも知れません。
アラビア文字など、たとえ読めなくても
感覚的に「いいな」と思う気持ちが生まれるという意味です。
これは、言葉の意味が文字を変化させてしまわず
文字そのものを美しいと感じることを指します。
このように、視覚的な引力とは
人間にとって有効な情報、
感情に訴えかけてくる主題のことを意味します。
このカテゴリーは、性的な魅力、(異性への性的欲望)や
赤ちゃんやペットなどのかわいらしさも入ります。
さらに、死や暴力に関するシーンをふくむ恐怖、嫌悪感、
手に入れたい品、目新しさなども含まれ、広範囲に存在しています。
これらの被写体を目にしたときの反応は
各人の個人的な興味によって大きく異なりますが
無意識に美しいと感じる世界を求めているのでしょう。
こうしたさまざまな視覚の引力の要素を
正確に釣り合わせることは不可能ですが
視線を引きつける被写体を理解していれば
効果的に取り入れることができます。
そもそも商用ヴィジュアルはそのような役割だと言えば
しっくりくるかと思います。
印象的な写真を撮る際にはこの視覚の引力を使用したり
グラフィックな要素と色彩の作用を取りまぜたりして
人がつい目を向けてしまう構図を意図的にすることが可能です。
印象に残る写真・グラフィック・イラストや絵画に
抽象度が高い絵が求められることが多いのは
この表現しづらい部分にダイレクトに投げかけることが表現しやすい
と言えます。
次回は、この意図的なヴィジュアルについて
もう少し詳しくお伝えしてゆきます。